【まとめ記事】発達障害を防ぐために
発達障害児急増の背景にある「周産期医療」の見落とされた問題
近年、日本では発達障害児が驚異的に増加しています。
原因については諸説あり様々な分野で研究されていますが、重要な視点が見落とされています。
周産期の間違ったケアが、障害児・発達障害児の増加と密接に関係しているという問題です。
医学的には、早期新生児の低血糖症、重症黄疸、高Na血症性脱水などが脳にダメージを与え、発達障害をはじめ深刻な後遺症を残す症例やメカニズムが数多く研究・発表されています。
しかし、発達障害児の増加を防ぐにはどんなケアをすべきか、という予防医学的観点からの系統的な研究は極めて少なく、医療関係者や母親への注意喚起に至っていない現実があります。
1万5000人の新生児を診てきた産科医が予測した未来
私は産科医・麻酔医としてこれまで1万5000人以上の赤ちゃんをとりあげ、30年にわたってデータを取り、出生直後の新生児の低体温症・栄養障害・体重発育・重症黄疸などについて研究してきました。
そして20年以上前から、将来、日本では低血糖症や重症黄疸などで発達障害児が増加することを予測し、そのことを学会などで報告してきました。
WHOの母乳推進は正しかったのか ― 日本で起きた“完全母乳主義”の弊害
私が発達障害児の増加を予測したきっかけは、WHOとユニセフが1989年に共同発表した「母乳育児のための10カ条」です。
その主旨は、「赤ちゃんには母乳以外、水も人工乳もできるだけ与えるべきではない。それを母親に啓蒙していこう」という内容です。
母乳が赤ちゃんにとってかけがいのない栄養源であることは間違いありません。
WHOの勧告は、国際機関がアフリカの飢餓に際して人工乳と哺乳瓶を援助したところ、母親が衛生環境の悪い川の水で人工乳を溶いて飲ませてしまったために赤ちゃんの感染症が爆発的に増えてしまったという教訓がもとになっています。
衛生環境がよくない途上国の母親に対して、「赤ちゃんの感染症を防ぐために母乳以外与えないようにしましょう」という考え方でした。
これは公衆衛生上、正しい勧告です。
その後、国際的に母乳の長所を見直そうという機運が高まり、先進国でも10カ条が奨励されるようになりました。
日本でも、厚労省が10カ条を推進しました。「母乳は赤ちゃんにいい栄養だから、母乳が十分に出るお母さんはできるだけ母乳で育てましょう」という考え方であれば私も大賛成です。
問題は、日本の母乳推進にあたって「母乳以外は水も人工乳もできるだけ与えないように」という10カ条の内容がそのまま推奨されたことです。
そのため、日本のお産の現場では、低出生体重児以外、余程のことがない限り母乳だけで水も人工乳も与えない「完全母乳主義」が広く普及しました。
このことが日本の赤ちゃんを危険にさらす結果になったのです。
多くの母親は、出産直後はほとんど母乳がでないうえ、その後の母乳の出方にも個人差が大きい。
それなのに多くの産院で健常に生まれた子には一律に「水も人工乳も与えない」というケアを行なっているため、出生直後の赤ちゃんは飢餓状態(低栄養+脱水)に置かれてしまっているのです。
もちろん、途上国での完全母乳推進にも同じリスクがあります。
しかし、途上国の場合、まず感染症を防ぐことが優先される。
だからWHOの10カ条は、公衆衛生上は正しくても、赤ちゃんの栄養を考えると、医学上は「次善の措置」なのです。
その10カ条を衛生環境がよく、感染症の心配がほとんどない先進国の日本の医療現場にそのまま適用するのは、赤ちゃんの飢餓(低栄養)のリスクを高めるマイナス面の方が大きい。
これが赤ちゃんの障害のリスクを高めている原因の一つです。
私は厚労省が10カ条をそのまま推奨し、全国の産院に普及していくのを見てきて、「いずれ後遺症の問題が大きくなるのではないか」と予測し、心配しました。
カンガルーケア(早期母子接触)が招く新生児の低体温と栄養障害
さらに事態を悪化させたのが、日本の新生児科医などがお産の現場で「カンガルーケア」(現在は早期母子接触=STSという名称に変更)という新生児管理のメリットを提唱し、2007年に厚労省がそれを推奨したことで爆発的に普及したことです。
このカンガルーケアは、出生直後の赤ちゃんを裸のまま母親に「抱っこ」させることで母子のスキンシップを深め、愛情を強めるというものです。
これも医療体制が未整備な南米の途上国の産院で、保育器が足りないために低出生体重児を母親に抱かせるようにしたところ、赤ちゃんの死亡率が下がって母親の育児放棄も減ったことから、途上国向けの「低出生体重児のケア」として注目されたものです。
このカンガルーケアを日本では健常に生まれた赤ちゃんに適用しています(日本の産院の6割が採用しているとされています)。
しかし、長年にわたって早期新生児の体温調節のメカニズムを研究してきた私の目から見ると、日本の分娩室の温度は生まれたばかりの赤ちゃんにとって非常に寒く、母親に裸のままの赤ちゃんを抱かせるやり方に保温効果は全くなく、逆に冷やしてしまっているとしか思えません。
赤ちゃんを冷やすのは新生児管理として絶対にやってはならないことです。
生まれたばかりの赤ちゃんには栄養(糖分)が必要です。
しかし、体が冷えるとおっぱいが飲めなくなります。
大人でも急に寒いところに置かれると食欲がなくなるのと同じです。
カンガルーケアには他にも、出産直後で疲れている母親が赤ちゃんを管理しなければならないため事故が起きやすく、また母親の負担が大きくなって睡眠不足で母乳の出が悪くなるといった多くのデメリットがあります。
新生児期の低血糖が将来に残す後遺症 ― 周産期医療見直しへの提言
なにより最悪なのは、日本のお産の現場では、WHOの10カ条による「完全母乳」と「カンガルーケア」がセットで行なわれていることです。
赤ちゃんに「母乳以外、水も人工乳も与えない」というケアを行ないながら、カンガルーケアで体を冷やされているため赤ちゃんはおっぱいを飲めない(食欲がでない)、そのうえ母親も睡眠不足で母乳の出が悪くなる。
これではせっかく健常に生まれた赤ちゃんをみんな飢餓状態にしてしまうようなものですが、日本の産科の現場で広がっているのが現実なのです。
私はWHOの10カ条に加えて、カンガルーケアが広がるのを見て、「近い将来、新生児期の低血糖の後遺症で様々な障害が残る子供が爆発的に増えるだろう」と予測し、深く憂慮しました(学会や会見でも訴えてきました)。
今日、予測は「発達障害児急増」という最悪の形で現実になってしまったのです。
そこで一刻も早く日本の将来のために周産期医療を見直すべきだと筆を取りました。
以下の記事は、私が考える周産期医療見直しのための「処方箋」の私案です。

